建築の島

建築とマンホールデザインのブログ

新・美の巨人たち 金具屋・斉月楼

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(写真は番組公式HPより)

www.tv-tokyo.co.jp

長野県・渋温泉にある旅館「金具屋」の一棟「斉月楼」は、木造4階建ての建築。訪れた女優の田中道子さん(二級建築士の資格を持つ)は「まるで楼閣のよう」と声を上げる。

 

宮大工が手がけたからか、「裳階(もこし)」「斗組(ますぐみ)」「花頭窓(かとうまど)」など、寺社建築の専門用語がバンバン出てくる。

表玄関から中に足を踏み入れると、屋内なのに通りを歩いているような雰囲気。部屋を家に見立て、廊下は道路として、空に見立てた天井は青く塗られている。床に埋められたかつての水車の部品も、アクセントになっている。

遊郭や料亭で使われる赤い「べんがら」で壁が塗られているのは、旅館を「寺のように荘厳な感じ」にせず、「遊びに来る場所」として捉えているためという。

とにかく遊び心満載で、たとえば3階~4階の踊り場の窓に富士山をあしらい、その1つ下の2階~3階の踊り場では、富士五湖に張った氷がひび割れている様子をあしらっている。

7つの部屋を覗くと、同じような部屋が一つとしてない。部屋を手がけた宮大工同士で競い合うように工夫したという。宮大工が普段作る寺社建築って、「決まった形式」の建築やデザインが多いけれど、「斉月楼」のように、金に糸目をつけずに「好きなものを作ってくれ」と施主(金具屋の6代目)に言われて、あんなに自由に粋な部屋を作ってしまうのが凄い。

ちなみに建築費用は、今の15億円ほど(!!)。鉄道計画が白紙になった時、皆さぞ落胆したのではなかろうか。

それにしても、大正~昭和初期の不景気で、内需拡大を目指した政府が国内旅行を奨励したくだりは、なんだか現在の「Go To トラベル」キャンペーンを思い出す。

広大な宴会場(130畳)の屋根裏は、和風建築には珍しいトラス工法(富岡製糸場とか日光金谷ホテルの舞踏室とか)で作り、柱のない空間を実現したという。


今日までこの昭和初期の建物や温泉街の街並みが残された理由は、高度成長期に開発をまぬがれたおかげ。よその温泉地のように、団体客を受け入れるために、大きなコンクリート造りに建て替えることも、バスに合わせて道路拡張もできなかったのが、結果として幸いしたようだ。

こういう話、黒川温泉(熊本)なんかを思い出す。昔の温泉街のまま残していたら、バブル経済がはじけ、味気ない画一的なコンクリートよりも、昔ながらの風情がむしろ「味わい深い」と評価されるようになった。

「金具屋」だけでなく、周辺の旅館やお店など、昭和初期の雰囲気をとどめた建物が多い。「ここの道、ぶらぶら歩きたい!!」と激しく思った。