建築の島

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新美の巨人たち 山の上ホテル

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(写真は番組公式HPより)

www.tv-tokyo.co.jp

録画しておいたものを視聴。「山の上ホテル」の公式HPを見たら、放送日にサーバーが落ちたらしい。番組を見た人が一斉にアクセスしたのか。

 

東京・御茶ノ水にある「山の上ホテル」は、ヴォーリズが設計した建築。文豪に愛された宿としても有名で、今回の旅人は又吉直樹さん。もちろん、カンヅメになって原稿を書く(楽しいような、楽しくないような……)。


完成は1937年(昭和12年)で、ホテル開業は戦後の1954年(昭和29年)。

2年前に改修工事を終えたばかりで、竣工当時の姿に復元されたという。エントランスの床には「テラゾー」という人造大理石であしらった模様が。「ふるカフェ系」台湾篇(こちら)で見た「磨石子(マースーズ)」みたいなものだろうか? 階段踊り場の階を示す数字は、これまた竣工当時のレトロな書体に。

ロビーではかつて、カンヅメ作家の原稿を編集者が待っていたという。チェックインロビーの壁は白漆喰で、波打つ板の上と下の部分にはオリジナルデザインのタイルが(かわいい)。作家・池波正太郎の描いた絵も飾られている。

35室は全部違う作りになっていて、家具はアーリーアメリカンスタイル。机も椅子も、長時間座っていられそう。再現ドラマで、若き日のヴォーリズを俳優が演じているが、モノクロ映像なのが良い。

池波正太郎の泊まった部屋は、畳の部屋にベッドという和洋折衷スタイル。テラスに坪庭がある。
池波は次のような言葉を残している。
「私のように連日、根をつめて仕事をしている者にとっては、
 ぼんやりしていることが何よりの薬なのだ」

こんな言葉を聞いたら、作家でなくとも泊まりたくなるではないか。

常連だった池波は、預金通帳をフロントに預けておいて、宿泊代を引き落としさせたという(当時の100万円て、今だといくらだろう?)。1回のカンヅメで、何泊していたんだろう。


建物の来歴。
元々は石炭王・佐藤慶太郎がヴォーリズに設計を依頼した研修施設で、「佐藤新興生活館」という名前だった。話はそれるけど、明治~昭和初期の近代建築って、施主として実業界で成功した「〇〇王」がよく出てくるよね。

番組では戦後のGHQによる接収の話は出てこなかったと思うが、後で確認したら、やはり接収されていた。これも洋館あるある。

戦後、使われていなかったこの建物を、創業者の吉田俊男が「山の上ホテル」として開業。「西洋旅籠」を目指し、欧米風だけど日本の旅籠のような、居心地の良いホテルを作り上げた。勤続5年以上の従業員をヨーロッパへ研修に行かせた。看板、メニューのデザインを担当した美術スタッフも、ヨーロッパ研修に行った一人。


居心地が良さそうだし、上の階でも坪庭があるし、カンヅメになっても私は全然困らないな~。作家たちは、「神田の書店街に行きたいな~」という誘惑に駆られたことはなかったのだろうか? ロビーに編集者が待機してたけど、その目をかいくぐってだなあ(以下、妄想が止まらない)。


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