建築の島

建築とデザインマンホールのブログ

ミステリな建築 建築なミステリ

『ミステリな建築 建築なミステリ』
篠田真由美 文/長沖充 イラスト エクスナレッジ

以前、エクスナレッジから『シャーロック・ホームズの建築』という本が出ていましたが(こちら)、本書では様々なミステリに登場する建築を取り上げています。ミステリが好き、建築が好きという人にはたまらない一冊。

 

シャーロック・ホームズの建築』の北原尚彦さんによると、当初、シャーロック・ホームズだけでなく、色々なミステリの建築について書いてはどうかという提案があったそうなので、あの企画が篠田真由美さんに行ったということかな?

篠田真由美さんは「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズで知られるミステリ作家。自身も建築愛好家として各地の建築を巡っているそう。


前半は実在する、または、かつて実在したミステリアスな建築についての考察。実在した建築であれば、絵や図面もあるだろうし、そんな不思議な点はないのでは?と思いきや、一筋縄では行かない。

明治時代の日本最初の西洋式ホテル<築地ホテル館>は、山田風太郎の『明治断頭台』に登場する。図面が残っていないうえに、明治初期に洋風建築を真似たものなので、レイアウトが何かと不自然。
ジョサイア・コンドル設計の<鹿鳴館>は、様々な様式を折衷したことで、ピエール・ロチから「どこかの温泉町のカジノのよう」とこき下ろされる。コンドル本人も黒歴史と感じたらしい。
黒川紀章設計の<中銀カプセルタワービル>(関連記事はこちら)は、カプセルを外せるならば、密室ミステリや完全ミステリの舞台となりうるのでは?という考察。

まだ訪れたことがないので、見てみたいと思った建築をメモ。
福井県の<龍翔小学校>(現在あるのはコンクリートの再現)と山形市の<旧済生館本館>には、エッシャー(英語読み)の父親であるオランダ人技師エッシェルが関与していた。どちらも上に塔が載った不思議な建築。
福島県伊達市の<旧亀岡家住宅>は、和洋折衷の館にこれまた謎の塔が載っている。


後半は、ミステリに登場した建築について。

横溝正史悪魔が来りて笛を吹く』は、終戦直後の住宅不足の東京が舞台。親族の者(血縁じゃない者も)が同じ敷地内の建物に住むというのは、仁木悦子の『猫は知っていた』でも見た設定。
思わず膝を打ったのは、「皇居から45分以内で、それなりの広さがあり、設備の状態が良好な洋室のある住宅」「無傷で残った洋館付きの邸宅となると、進駐軍に住まいとして接収された可能性が高い」という指摘。その場合、気の合わない親戚と同居することもなく、殺人事件も起きなかっただろう、とも。

山田風太郎『明治断頭台』の「怪談築地ホテル館」では、前述のように実在した<築地ホテル館>が舞台となっている。江戸から明治に変わった頃、というのがミソ。現実の建物とは違うと思われるが、ミステリの舞台として敢えて大広間のような広い場所に変えたのではないか?と推察する。
建築から話はそれるけれど、刺さった言葉を書いておく。

 

山田風太郎の時代小説は、江戸から明治へという大きな変革の時代に生き、死んだ有名無名の人々の息遣いを活写し、私たちに束の間、過去の幻影を見せてくれます。同時にそこは、太平洋戦争の敗戦によって激変した日本で、変わる社会の荒波をなんとかやり過ごしながら、せこく、みじめに、されどしたたかに、生きていかねばならなかった我々の親たち、祖父母たち、昭和の庶民の姿が重ねられていたような気がします。

 

 

ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』の<グリーン屋敷>がきっかけで、その後、エラリー・クイーンは『Yの悲劇』で、アガサ・クリスティは『ねじれた家』で、小栗虫太郎は『黒死館殺人事件』で、それぞれ自分なりの「事件が起こる舞台、住人の精神に影響を与える館」を書いた。


後で読んでみよう。

 

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